音個の速度 一瞬の連続の一生(Web連載版)第一部最終回

 取調室。興奮状態を装いながら実は余裕の音個が、わざと、先ほどの片頬だけの微笑を作りつつ、今度はそれに、怒りを付け加えるニュアンスにぴくつかせながら、目は、調べ室の刑事二人、一人は婦警を睨みつけ、手錠と捕縄を椅子に縛り付けられながら、言ってのける。

「こんなとこに縛り付ける前に、先に救急車ちゃうの?」といって、椅子の背もたれに、もたれつつ、怪我してる片足をどかっと、机に載せながら、さらにすごんでみせる。「おい!桜田門! この暴力団が! おい!」

「まって! おちついて!」と婦警に精子がかかる…、いや、婦警が静止にかかる。

「山崎さん! まず、このお茶をのんで!」と机の上に置かれたお茶を飲ませるためになだめる。マスクをしていたので、全て見れたわけではなかったが、クリッと大きな目が、ちょっと、ちょっとだけ、タイプであった(と、「獄中記」に書かれてある。何度もいうが、実は音個は冷静だ)。
 ふっと笑ったふうを装いながら、差し出されたお茶を飲むためにまず、先ほど、散々痛めつけられた右腕を、机の上に置いた、その瞬間、演技ではなく、音個は崩れ落ちた。

 関節が外れているのだ。鋭い痛みがあった。「あっ」と周りから声が上がり、愉快になった。素早く立ち上がり、動かせる範囲でその右腕で机の上を、拳で殴りつける!「さっきの三人呼んで来い、刑事の前で暴力をみとめさせろ」左手で、お茶をぶん取り、一気飲みする。「ハナシはそれからやろ」。

 取り調べを担当する刑事が呆れたような、憐れむような、そんな、笑いで音個を見ている。婦警が更に続ける。「聞いた話なんやけど、山崎さん、…何か病気をもってるって?」。「だから、おれは、怪我してる。ああ、障害のことか、病名は、非定型精神病」。「それって、どんな、…病気?」。ふん、と嘲笑いつつ、「やかましい、分裂病じゃ、関係ないやろ、おまえらにわかるか。だから、はよ、連れてきてくださいよ」といった瞬間、先ほどの一番若い警官が調べ室におどおどと入ってきた、すかさず、「おい、にいちゃん、なあ、さっきおれにおまえらがやったこと、喋っていってくれるか? やりたい放題やってくれたな」と笑いながらその若い警官に投げかけたが、警官は先ほど以上にぶるぶると怯えながら、首を振ってさっさと、調べ室を後に逃げ出していった。音個は思わず、実際に笑い出してしまった、「みたか、いまの怯えっぷり。そういうことじゃ。さきに、病院やな」といったが、まあとりあえず、とカバンの中を確認していいか、といわれ、かってにしろや、そういった。調べ官である刑事がいう。「盗んだ、それで間違いない?」「おう、そのとおりや。おう、盗んだ、でも、それをおれが認める前に、6人がかりで、暴力をふるわれた。別件や。連れてこい」音個の悪態はしばらく続いた。「調べの前に連れてこい。でないと応じない、そして先に、病院や」。しかし、「桜田門」はそんなことが「認め」られようものなら、終わり、である。あくまで、否定しかばう、というよりも、この時点では、相手にしない。

「いや、犯行を認めたなら、先に調べがはいる、それでいいか」
「おう、もうなんでもええわ。おわってから、てっていてきにやったるから、なんでも訊けや。むかつくなしかし、おまえら」。ほんまにしつこいからな、おれは。そしてそれを宣言したからには、徹底してでも、しつこいからな。なんとしてでも意地になっておきたい、ここは。と、書いてある。
 そしてこのあとがまた惨めだ。なんと泣いたのだ! これだけ悪態を続けたあとに、なんと、音個は泣いたのだ!

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 取り調べ。
 過去に、何度もやらされてきたことだった。指紋採取、写真、体重・身長測定。音個はおとなしくこの形式に応じた。何度も繰り返してきたことだったから、慣れもあって、すぐに済ませることができた。服装は先ほどの「私刑(リンチ)」の最中、雨上がりのアスファルトを這いつくばって転げ回ったために、泥まみれといえる状態だった。右肘に、こぶし大ほどの傷跡が血に染まり乾いている。生乾きの靴が異臭を放っていた。体力は残っていなかった。しかし、犯行の時刻からは数時間がたっており、すでに意識は明晰だった。完全に正気、素面であった。全く空腹は気にならなかった。めんどくさいことをやらかしたな、といまさら一瞬考えたが、もう遅い、どうなるものでもない。調べ室にて、供述拒否権の説明、位記勲章年金云々…。病歴、生い立ち。訊かれるがまま、事実を喋った。隠しだてすることなど一切ない。どうにでもなれ。意識ははっきりしているとはいえ、やはり、疲れている。先ほどの覇気は微塵も残っていない。そして、部屋を飛び出たころの記憶は、全くない。

 「あの、とりあえず、体中が痛いんですけど、病院に連れて行ってくれませんかね! さきほどの警官らに散々、蹴り倒されたんですよ。しつこくいうようですけど。しかし、あそこまでやってええんか、まじ。肩、あがらへん。頭も踏み倒されてるんすよー!」
 「わかった、じゃあ、取り敢えず、調書、これ、作った分、拇印でいいから、折り目に合わせて、おしてくれる?」ここらへんも、何度も、過去に繰り返してきたことだ。黒いインクを塗った左手人差し指にて、拇印をつく。それをティッシュで拭き取る。そして、手錠を再びかけられ、椅子に縛り付けられた捕縄を外してもらい、調べ室をあとにし、車にて近くの私立病院に運ばれ、救急扱いというほどでもなかったので、だいぶ待たされた。木曜日だったので、専門医がすでに帰ってしまった、という。時刻はこの時、既に十八時を回っており、あたりは暗かった。
 ずっと外の車の中で待機していた。一時間近く待たされたあと、やっとレントゲンをとってもらったのが、もう十九時近くのことだった。適当な検査と問診を済ませ、薬局に内服と湿布をとってきてもらい、所轄の調べ室に戻された。そして、今日はここまでにするから飯を食え、といわれた。

三日ぶりの飯だ。

調べ室の椅子にもたれつつ、うつろな目で調べ室の壁をを眺めていた。担当の刑事とは別の人物が入ってきて、弁当を机に並べながら、ほら食べえな、といって、そのあと続けざまに、箸を手渡してくれた。音個は弁当のおかずの蓋をあけ、すぐにあたたかい白米の入ったもうひとつの弁当箱の蓋を開けた。一瞬、じっと眺めてみたが、おかずのなかから、魚のフライを箸でわりつつ、その断片を口の中に突っ込み、ついでに白米を頬張った。…大した食物ではなかった。しかし、今まで食った何よりもうまいとさえ感じられる。うまい。うますぎる。気づけば音個はがっついていた。うますぎるのと同時に、音個は数時間前に張り倒されて蹴り回された連中から差し出された食物におれはなぜこうも卑しくがっついてるのだ、と思いながらも、それでもしかし、がっついていた。そして気がつけば、涙を流していた。そのようすをみながら、弁当を運んできた警官がこういった。さも、

ちょっとええ場面みせてもろた

といった調子でこういった。

「ははは、なかんでええがな! うん! わかってる! それこそが本来の兄ちゃんの姿や!しってるよ! ところで、おかあちゃんに、今日のこと報告してもええか? いやわかってるやん、ちゃんと反省してるって、そうゆっとくやんか。そんな、なくなや! ははは、もう、ゆっくり! ゆっくりたべたらええ!ゆっくりでええよ! わかったわかった! よしわかった! 兄ちゃん、あれかいな、好きな女の子とかおらんのかいな!?」

 そうきかれ、実はこの時、音個は、住んでいる部屋の近所の薬局で働く姉ちゃんが気になっており、その清楚な姿が脳裏をかすめていたのだが、恥ずかしく思って、反駁した。

「そんなこと、…こんなことやらかす人間がそんなこと、とっくにあきらめましたよ…」そういってから、少し、呼吸が苦しくなり、さらに、激しく涙がでた。ん、ん? と警官は音個の顔を見つめながら、「ははは、そんな! なにもあきらめることあらへん! 兄ちゃん、男前やんけ! がんばれや!ははは!」と、高らかな笑い声を狭い取調室に響かせていた。明らかにその笑いは安心感と、勝利の快感に満ちていた。おれらに勝てるやつなどいないのだ、最強だからこそ! 任せられる! といいたげな…。
 腹立たしいと思うこともアホらしく、音個はひたすらに飯にがっついていた。涙は弁当を食い終わってからも、しばらく、流れ続けた。捕まったことへの後悔? 許しを請うためのパフォーマンス? ありえない。ありえないと断言できる。ここ数年の暗惨たる生活、かなしみ、そういった、もうどうにもならないものの凝縮として、そんな忘れ果て、捨て去ったはずの悲惨の抽象化としての涙。過去の遺失物をむちゃくちゃに引っ掻き回したいような、そんな衝動の暴発。…とかカッコよく言っておきたい。実際、彼にも何ゆえの涙なのか、わからなかったのだ。(とりあえず第一部完、いつか、第二部に続く

混沌コントロール・山﨑雅之介

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混沌コントロール

1978年兵庫県尼崎市生まれ。作曲家、著作者、愚か者。政治活動結社「医療大麻開放党」(元「大麻自由党」)代表。IQ65 。  生まれ持ってのADHD患者であることが、誤診16年を経て判明したが、挙句、様々な薬物中毒に陥る。現在の日本の、特に精神医療に対して激しい怒りを持っている。これからも、持ち続ける。  と、思っていたが、2018年1月8日、捜査、及び、化学(科学)的根拠、令状文、また本人の自覚にかなり疑わしき部分が残る事情をもって「覚せい剤取締法違反」に問われ逮捕される。  およそ5ヶ月の勾留を経て、服薬量が大幅に回復(およそ十分の一の量にまでに減薬)。それでも、現在も、こりずに薬物問題に向き合っている。  その他、前科前歴多数。その殆どが間抜けな不注意によるもの。  バンド(地獄の一丁目)活動を経てバンド仲間から絶交される(実質見捨てられる形)にいたり、現在、アーティスト名を「混沌コントロール」と名乗り、「まったくライヴ活動をせずインターネット上だけで(つまりこの部屋から一歩も出ず…)世界を制覇してみせる」と断言。  2014年、本邦において初の動きとして創立に及ぶ政治活動結社「大麻自由党」が中国華僑新聞等のメディアにて世界的に着目を浴びたが、日本においてはその性質上メディアが全く動けず無視され続けるが、今後の展開が期待を孕む。(Wikipedia参照)  さらに2014年、CNNにて、その演奏姿が全世界に放映されるに至り、ひとまずは、宣言通りの野 望、その入り口にたどり着く。これから更に精進いたします。http://www.youtube.com/watch?v=1ExUt6i0boM&list=UUedHp6KcvCTPn-vEkXm8GwQ 混沌コントロール公式サイト(CTRL Global Label) http://konton-control.com/ 混沌コントロールサウンドクラウド https://soundcloud.com/konton-control https://soundcloud.com/konton-ctrl 混沌コントロールYoutubeチャンネル http://www.youtube.com/user/kontoncontrol 「この部屋から一歩も出ず、世界制覇」などと書いてはいたが、2013年5月頃、孤独死寸前の状況下において、拘留を受けたため、家賃が払えず、結局、部屋を追い出される。およそ、このあたりがその人生の第一部、完。  ミュージシャンとしての夢は、ゴールドディスクをいつか手にしてみせる!ということであるが、こないだ、すっかり更新忘れてて、 ゴールド免許さえ取得できなくなった のが、実際のところ。  2019年6月現在、フリーランス、在野において作曲、アレンジ、サウンドクリエーターの仕事を請け負っている。  さらに!現在、自伝をもとにした大長編作文小説執筆中。つづきは出版本で!詳しくは出版本で!!

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