音個の速度 一瞬の連続の一生(Web連載版)第四回

 さて、事件当日の話に戻そう。

 まず、はじめに悪意があった。いや悪意ではなく、怒りがあった。さらに修正するに、怒り以上に痛みがあった。

 去年の冬のある雨の日、携帯電話を操作しながら、前を見ておらずに、おまけに傘を差して突進してきて、ぶつかりそうになったおじさんをよけながら、

「あぶないで、おっさん!」

という突っ込みをいれた、その拍子に滑ってアスファルトに打ち付けた右膝の皿が複雑骨折し、今では骨はくっついてるものの、時々痛みがひどいのだ。

 苛立ちが続いていた。ただし、ひたすら放念していた。苛立ちとともに考え事をしていた。 三日、メシを食っていなかった。痛み止めと、睡眠薬、その他、向精神薬ばかりを飲んでいた。疲れ、いやほぼ衰弱しており、唯一の安息である睡眠をとるためにさえ、さらにまた大量の薬を飲まなければならなかった。そしてまさに大量の薬物の影響下にその意識があった。ここ一ヶ月、まったくといっていいほど、人に会っていない。他人とのコミュニケーションにおいては、ほぼ皆無と言い得る

絶望的状況下にあったといえよう。

こないだ、ああ、三日前、月末の貧困に、恥をしのんで不動産屋の担当、川野さんに五千円を借りただけだ。カネが入るまでには、まだ、五日ある。そして、この音個にとっては、この日、なによりも致命的事態として挙げられる点に

雨のち曇り空だった。

悪意。怒り。そして痛み、苛立ち。大量の薬物摂取。ある病院の待合室でみた(このときも、この膝の治療だった)不快なTVの内容が、どうしても頭から離れなかった。「最近の万引きGメンのやり方」簡潔にいうと、そういう内容だ。万引きGメンらの、陰険なやり口が、不快であった。いやそんなお前ら見てないで未然にふせげれるやろ、それ。という風に考えたらしかった。音個に万引きくらいでの罪悪感はない。むしろ、こんな現行犯でしか取り押さえがきかぬような現状では横行して当たり前だと思っていた。音個は常々、過去の大麻所持による犯歴を実は気にしてたと思うので、「なんで大麻所持くらいの話が万引き(窃盗)に比べてさらに罪がおもいんじゃ?」としつこくいっていたみたいだ。 三日前に川野さんから借りたカネでMドナルドのダブルチーズバーガーセットを食っただけだ、それから何も食っていない。あ、あと「ファック・シェイク」(ストロベリー味)

衰弱しているのが自分でもよくわかる。この三日間、胃袋に詰め込んだのは、薬だけだ。なにか食おう、食うべきだ、そう思い、三日以上着替えていない上着のポケットのなかを手当たり次第にあさった。

ない、あったはずの、千円札4枚が、どのポケットにもはいっていない(ちなみに音個は財布を持っていない。「金銭をただならぬものと思うが、軽蔑しているので、特別扱いもしない」、そう言っていた)。着たまま寝ているジーンズのポケットを手探りしてみたが、どこにも、どのポケットにも、

あの「吾輩は猫である」と、当時としてはかなり斬新だったと思われるホモをカミングアウト

してみせた漱石先生が見当たらない! 僕の勘違いじゃなければ。

四枚とも! つまり、どこかに落としたのだ。なくしてしまったのだ。せっかく、川野さんから借りたカネやぞ、そうおもい、さらなる怒りがこみ上げた。そして思った。「盗んでこい!」と。否、もう、ややこしいわ、「捕まってまえ」、と!

略奪を繰り返してきた。食料品から人の心に至るまで。さんざんラリってやった挙げ句の果てに、警察沙汰になったこともあるが、その度ごとに

病気のせい

投薬のせい

しまいには、管理不足と店のせい

にし微罪処分で終わらせてきた。そんな姑息な自分のいちいちが、今はやけにイライラする。あらゆるわざとらしさが鼻につく。TVでみた万引きGメンのらのやり口に殺意を覚える。売れ残ったら捨てる、おれに言わせりゃ、万引き以上に罪深いことだ。その食料で何人の人間が救える? その、たかが「賞味期限」が切れたというだけの食料で。平和ボケやがって、まだ、この世界で、同じく、人類、みんなが一緒に立ってる同じ地球の上で! 餓死者がでる、飢え死ぬ者がでる、ついさっき生まれたばかりの赤ん坊が、まさにこれから「飢え死に」に向けて突き進んで死ぬ。そんな悲惨は常に考えられ、応じられていなければならない問題にきまっている。最悪の事態、だからだ。最悪のケース、その代名詞とされる餓死。つまりそれがまだ、手の届く範囲に見えてるのだ。なんとかしたれよ、いや、そんなこと、実は、どうでもいい。ガキの飢餓のことなどおれがしるか。このおれ自身が衰弱している。立ち上がって、生き延びるために、盗むべきだ。右肩にぶら下げたカバンは開いたままにしておく。単に、この中に、なんでもいい、食料品をにつめこむだけだ、ただそれだけのことだ。おれが生き延びるためには一つの店など潰れていい。「いっぱいの茶のためなら世界なんか滅びていい」そして「決してレジは通らずに」。そんなことを、考えるともなしに思っていた。

 そしてその時、足場のない床の上に、見た。あれは約一か月前に、最後に他人と会話らしい会話をした、あの日のものだ。一瞬、それは、泥のように見えた、芝生が削り取られた泥土のように見えたが、まぎれもなく、大麻の小片だった。またもや怒りがこみ上げた。あの日の醜態の一部始終が思い出された。

「あの醜い豚め」そう思った。というのも、あるSNSを介して出会った、同い年の、自称「デザイナー」の男が忘れていったものだ。当然いつもなら、喜んで吸っただろうが、この時は違った。机の角に脚をぶつけた、そんな風に怒りがじわじわと広がっていく。その大麻草はツテがない、というデザイナーに音個がルートを介して入手してやったものだった。カネだけは当然そのデザイナーが払ったが、それでカッ飛んだ挙句マンチーに陥った彼(巨漢。身長百八十の体重百十キロ)が、「わいがおごるから(音個はこの時も文無しだった)王将行こう!」といい気になってメシに連れて行ったはいいものの、いざ、出る段になり、カネがない、と言いだしたのだ! 慌てて、音個は母親に適当な嘘をついてカネを用立てねばならなかった。デザイナーは「人質」として店に残っていたので音個の母親の代わりに音歌(otouto)がカネをもってきて音個に手渡し、支払ったが、そのハイになったデザイナーに音歌が、「…カネたらんかったん?」と訝しげに聞くと、「ええで、ええで、きにせんで、また、煙草で返してくれたらそれでええで」と、また、とんちんかんなことを言い出す始末なのだった。

その晩にどうやら音個の部屋に忘れていったものである。その醜態。やってられるか、と思い、衝動的な怒りが爆発するかのように音個は立ち上がって思った。捕まったれ。一回くらいは拘留されるべきだ。TVでみた似たようなスーパーマーケットを狙う、と決めて、枕元にあった、外出するときは、いつももってる黒いショルダーバッグを掴んで肩にぶら下げて、そして実際に、時々万引きに利用させてもらっているスーパーマーケットで、見当たり次第の食料を、かまわず、堂々とカバンにつめたれ。

 重い扉だった。わざと重たくしてあった。普段、カギを全くかける習慣のない彼が、かなり扉を重たく締め付けておけば、開かないと思って容易に入れないに違いない、などと、酔っ払ったり、正確にはラリったりしながらに、用心というよりは冗談のつもりで仕掛けてあったのだ。そのいつも鍵など一切かけない部屋のドアを押しあけて外に出た。片足を引きずりながらスーパーマーケットを目指して歩いた。まだ右足の痛みは続いていた。何もかもが、なにより自分自身に怒りがこみ上げてくる。大量の薬を飲んでいたので、まっすぐに歩くことはできなかった。フラフラと歩く彼を、誰が見ても泥酔状態の人間だと思っただろう。時刻はだいたい正午過ぎだった。

スーパーマーケットについた。ドアをくぐりぬけた。目の前に果物が山積みされている。さらに怒りがこみ上げた。だれがみてようが知ったことか。いちごとグレープフルーツをその場ですぐにカバンに詰め込んだ。前進する。肉が並んでいる。詰め込む。さらになんでもいい、クリープを詰め込んだ。そして、出口に向かっていった。向かいながら、一人、店員がおれの方を見つめている。その店員も出口に向かっていった。おれはみられてたな、と、そう思ったが。しかし、いまさらしるか、どうでもいい。ドアをくぐりぬけた。すぐにその店員が声をかけてきた。「お客さん!まってください!」うるさいわ、勘違いすんな。あほか、おれと客を同じにすんな、来るのはいつも平和な人間だけちがう。すべて、見せたと思うのだが。最初から最後まで。おれのどこみて「客」やねん、見てのとおりじゃ、おれは、絶対にはっきりいえるが、客ではない。盗人や。そんなこと、わかるはずや。そうおもい、笑いながら無視して歩く。ひたすら無視だ。というよりも、このときのおれに、無視以外の行動が、あるか? 少しでも、わきまえてる人間なら、そのほかの方法は、思いついても、不可能である。逃げることはできない。挑戦したとしても、無様にコケるハメになる。だったら、態度は変えなくていい。態度は、むやみに変えない方がよい。

 店員がいつまでも追いすがるので、おれは悟った、「つまり、おれ、前からはられてたな」と。

 店員の両腕がおれの腰を羽交い締めにする。犯罪を認める前にまた、立証もできておらず、もちろん警察ザタにすらまだなっていない、その時に、思いっきり、今、誰がどう見ても、暴力を、いきなり後ろからふるわれてますやん! と! まてとおもった。それはまてと。いったれ、しばけ。そう思った。恥ずかしながらそう思った。振り向きざまに右ストレートが相手の顔面を潰す。だろうと予想してしかし、相手が悪かった。…おじいさんだ、この店員。ゆうに60すぎだ、さすがになぐれず、おれは転倒した。相手を怪我させないように倒れなければ、と、ほんの一瞬思ってしまった。右肘を強打した。血が、流れている。しびれている。完全におれは、後ろからいきなり、はりたおされて、怪我をした。うん、もう、完全におれ、犯罪を認めんかったら、持っていける、というか、もし、成立させなかったら、というか、今のところ、「スーパーの店員にいきなり後ろから、一方的に張り倒されて、怪我を負わされた」ということになってないか。つか、これ、すでに、別の事件に変わってないか。そう確信して、悪態をつくことにした。

話がややこしくなればなるほど面白い。

「絶対に認めへん。カバンの中はみせません。公道でそっちになんの権限があってそんなことゆってんねん。誰が許可するか。誰やねんお前ら」また、「見てのとおり、おれ(含む。笑)、実はうごかれへんの」といって右膝の二度に渡る手術あとを、白日のもとに狙いすましてたタイミングで、公の面前で大げさに晒してみせる。なるべきところでは、こだわらず、すばやく弱者になっておくのが、賢明だ。わるいが、ご存知、得意技だ。いかに効果を大げさに演出できるか、これがまた、おれの生き延びる課題の全てだ。そうやってきたし、今後もそれでいく。いきのびるにかっこわるいもない。やかましい。

 張り合っていると、当然、善良なるやじうまの方々が人だかりをなしてこっちを見ている。集まってくる。ふたりの一般人が割り込んできた。皆さんの手前、ちょっとかっこつけよう、それが、こういった類の登場シーンとして残されてある箇所だ。つまり、立場が逆ならおれが登場シーンとして残されてある箇所だ。つまり、立場が逆ならまずまっさきに、おれが、普段、常にうだつの上がらない、このおれが恥も外聞もなく、迷う、という選択肢は最初からなかった、いやあっても目に入らなかったかの如くに振る舞い、飛びつき踊りかかりながら、すばやく、しかし、何事もなかったかのようにあやかるべきことだな、と思った。一人は構う暇がなかった、もうひとりがいきなりカバンを掴んだからだ。結果から先にいっておくと、容赦なく、殴り倒した。なぜなら、この鳶のかっこした肉体労働者に対し、そこは完全に主張しなければいけない、守るべきものがあった、と思うんだ。おれは。人権、つまり人ならみんな守るべきもの、それがあると思うのだ。

 普段めったに、殴り合いには及ばない。ただ、とくにこんな時には腕力なんぞいらないことは、しっている。急所。先手。本物の殺意。姿勢が落ち屈む。すぐさま、少しだけ傾きつつある太陽を上にして、かがみ込み、目をさらに潰す。マウントポジションまで持っていこうとしてその時、警察が来た。PC(おれがいうPCはパトカーや!)から順をなしつつ、降りでる三人の武装者。おれに向かってこのおれ様に向かって! わたくしに向かって! うるさく叫びながらも、しかしばっちり、おれとの距離は詰めながら縮めつつ、近寄ってきた。

「絶対カバン、みんなよ。みせへんぞ、許可せえへん」

「令状がいるやろ、令状がいるはずや。取り調べの際、刑事でもむりやりあけてええもんちゃうぞ。確認すんぞ、それ」

「おまえら巡査ごときがそんなでかい顔できると思ってんの? 裁判所も、しいては天皇陛下もずいぶん、警察からなめられたもんやな」

「あ、そのカバン、おれのちゃうで! おれのカバンちゃうわーそれ! …うそやけどっ!」

「とりあえずなんでもええ、令状もってこい。巡査風情が

 …おもしろい。はっきりいって、音個にとっては、この何故か面白かったところが、皆さんには、非常に申し訳ないと思うくらいだった。面白すぎるくらいに、やじうまがより集まり、音個のハイなテンション、この時のそれを一言で表すと、

「狂人」のみが、ただ、たもちうる、テンション。

 緊迫の中に、ひとつの笑いが浮かび上がり強調されていた。…ちょっとかっこいい表現をつかってしまったが、音個はことのはじめからずっと、笑っていたのである。つまり、本気で驚いていたのは、むしろ、周囲であり、確かにそれは今時の白中に、この国には不似合い、完全に普通の出来事ではなかった。音個は冷静だった。その証拠にこの瞬間頭の中では、この時、おれのほうみて、誰か(脇役のような存在)が

「笑ってる? こいつ、この状況を笑ってる?」

というつっこみさえいれてくれたなら、もう、いうことなかったな、という余裕さえ、自問自答していた。

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混沌コントロール・山﨑雅之介

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混沌コントロール

1978年兵庫県尼崎市生まれ。作曲家、著作者、愚か者。政治活動結社「医療大麻開放党」(元「大麻自由党」)代表。IQ65 。  生まれ持ってのADHD患者であることが、誤診16年を経て判明したが、挙句、様々な薬物中毒に陥る。現在の日本の、特に精神医療に対して激しい怒りを持っている。これからも、持ち続ける。  と、思っていたが、2019年1月8日、捜査、及び、化学(科学)的根拠、令状文、また本人の自覚にかなり疑わしき部分が残る事情をもって「覚せい剤取締法違反」に問われ逮捕される。  およそ5ヶ月の勾留を経て、服薬量が大幅に回復(およそ十分の一の量にまでに減薬)。それでも、現在も、こりずに薬物問題に向き合っている。  その他、前科前歴多数。その殆どが間抜けな不注意によるもの。  バンド(地獄の一丁目)活動を経てバンド仲間から絶交される(実質見捨てられる形)にいたり、現在、アーティスト名を「混沌コントロール」と名乗り、「まったくライヴ活動をせずインターネット上だけで(つまりこの部屋から一歩も出ず…)世界を制覇してみせる」と断言。  2014年、本邦において初の動きとして創立に及ぶ政治活動結社「大麻自由党」が中国華僑新聞等のメディアにて世界的に着目を浴びたが、日本においてはその性質上メディアが全く動けず無視され続けるが、今後の展開が期待を孕む。(Wikipedia参照)  さらに2014年、CNNにて、その演奏姿が全世界に放映されるに至り、ひとまずは、宣言通りの野 望、その入り口にたどり着く。これから更に精進いたします。http://www.youtube.com/watch?v=1ExUt6i0boM&list=UUedHp6KcvCTPn-vEkXm8GwQ 混沌コントロール公式サイト(CTRL Global Label) http://konton-control.com/ 混沌コントロールサウンドクラウド https://soundcloud.com/konton-control https://soundcloud.com/konton-ctrl 混沌コントロールYoutubeチャンネル http://www.youtube.com/user/kontoncontrol 「この部屋から一歩も出ず、世界制覇」などと書いてはいたが、2013年5月頃、孤独死寸前の状況下において、拘留を受けたため、家賃が払えず、結局、部屋を追い出される。およそ、このあたりがその人生の第一部、完。  ミュージシャンとしての夢は、ゴールドディスクをいつか手にしてみせる!ということであるが、こないだ、すっかり更新忘れてて、 ゴールド免許さえ取得できなくなった のが、実際のところ。  2019年6月現在、フリーランス、在野において作曲、アレンジ、サウンドクリエーターの仕事を請け負っている。  さらに!現在、自伝をもとにした大長編作文小説執筆中。つづきは出版本で!詳しくは出版本で!!

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